マイケル・ポーター 〜 共通価値の創造

マイケル・ポーターというと、 企業や国家における、 競争優位、差別化という考え方を提唱し、

世界中の経営コンサルタントや、 企業の企画部門の人たちにとってのカリスマの筆頭です。 

今は一般にはドラッカーが人気ですが、 

ドラッカー以上に世界中の企業に影響を与えた人であることは間違いありません。 


その大御所が、 過去30年の経済の在り方を変える、 新たなビジネスの在り方を提案しています。 

企業間の競争をいかに勝ち抜くかを研究の専門にしているポーターは、 

1980年に競争優位に関する著書を発表し、 それが世界中の注目を浴びることとなりました。 

その後も、ハーバードビジネススクールの教授として、 

競争優位についての教鞭と研究をされています。 

私も、若いころ経営コンサルタントをしていた時代がありましたが、 

その頃の経営コンサルタントたちの間では、 彼の考え方はコンサルタントのいわば常識でした。 

世界中の企業経営者やコンサルタントに、 何十年も影響を与え続けてきたポーターは、 

まさに「競争」の権化のような存在です。 今でも日本では、 彼の名前を取った「ポーター賞」という、 優れた競争優位を確立した企業の表彰が毎年行われています。 


 ところが、そのような彼には、 日本ではあまり知られていない一面がありました。 

私がシューマッハカレッジに留学していた時のことです。 

私は、自然生命系が「競争」ではなく「協調」を基本として、 

お互いの密接な相互依存関係で成り立っているのを鑑み、 

その仕組みと人間の社会、経済との関連を研究していました。 

その中で、「協調」とは何か?をテーマに文献を調べていた時、 

なんと「競争」が専門のポータの論文が、 2本も検索に引っかかってきたのです。 

一つは、スウェーデンの国家の在り方についてのもので、 

国内の各地域の産業をクラスター化し、 その中で協調的な活動が活発になれば、 

結果的に国家の力も増すだろうという研究でした。 

もう一つは、大都市のスラム化の問題解決に関するもので、 

これも、都市の中の各地区内における協調的な活動を推進することにより、 

都市が再活性化していくという研究でした。 


確か後者の論文のあとがきだったと記憶していますが、 

ポーターは、自分は「競争」の研究が専門であるが、

この研究では「協調」のほうがよいという結果となった。

しかし、これは都市間の競争を優位にするという意味で、 

やはり「競争」の研究なのだ、 と言い訳的に書いていたのが印象的でした。 


これらは90年代前半の研究ですが、 このころからポーターは、 

ある意味、「社会性」というものに、 関心が徐々に移って行ったように見受けられます。 

2000年代に入り、 ポーターは、企業が優位に競争するには、 

CSR(社会的責任)を重視した企業戦略が、 これからは重要になると提唱しはじめます。 

そして2011年、 ポーターは「共通価値=Shared Value」という言葉を作り、 

これまでのCSRの枠を超えて、 社会のニーズや問題の解決を、 

会社の事業の中心においた経営アプローチを提唱しました。 


企業本来の目的は、 単なる利益の追求ではなく、 

経済的価値と社会的価値の両方を生む、 共通価値の創造であるというのです。 

 その論文の中では、 競争優位という言葉がまだ散見されますが、 

それ以上に、 共通価値に重きを置くことは、 企業の在り方を変え、 

資本主義自体の在り方も変わっていくだろうという、 

ポーターの熱い思いが随所に込められています。 


しかしながら、 

「共通価値」の中で求められる社会性というのは、 

目前に見えている限定的な社会的問題の解決という範囲でとらえられており、 

あくまで企業は、 それを元に経済的利益を上げ、 

企業の利己的な側面は捨てないというスタンスをとっています。 

さらに、ポーターの考える「共通価値」は、 社会全体の視点、

もしくは、 自然を含めた広い意味での社会性に基づいていないことから、 

場合によっては、 一部の社会問題の解決にはなるけれども、 

他の面で逆に社会にマイナスになる可能性を多分に含んだ考え方となっています。 

確かに、 経済的な利益、つまり「企業価値」だけを追い続けてきた企業が、 

今後、「共通価値」に力点を置くようになることは大きな進歩です。 

しかし、まだこの考え方が、 現代のビジネスの根本的な欠陥を残したままであることを、 

私達は充分に認識しておくことが必要です。 


私は、ポーターより以前に、 彼の「共通価値」の創造をもう少し進化させた形である、 

「社会価値」の創造という考え方を用いて、 それを実社会に活かすべく活動を行ってきました。 

その「社会価値」の創造という言葉には、 

これからの時代におけるあらゆる活動には、 人々の幸せの原点を見据えた、 

自然環境への配慮も含めた“自然と人間社会全体の質の向上”、 

が不可欠であるという意味が込められています。 


この考え方は、いわゆる今日言われている、 

社会問題ありきが先にある“社会的事業”とは異なります。 

社会問題のあるなしに関わらず、 自ら考える社会ビジョンの実現のために、 

事業活動を行うことを「社会価値」の創造と呼びます。 


「社会価値」を考えるには、 どのような社会にしたいか、どのような地球にしたいかという、 

社会ビジョンを持つことが基本になります。 

ある意味、地球上に住む一人の人間として、 

どのように全体に対して貢献していくかという、 一つの哲学が求められるわけです。 

顧客も、その哲学に共感できる会社から物やサービスを購入することになっていくでしょう。 


「社会価値」の創造には、 

これまで経済やビジネスとは関係の無かった分野の知見が重要になってきます。 

自然生命系の知識から、 人の幸せの原点にある健康や食、暮らし方といった知識、 

場合によっては、宗教的な考え方やスピリチュアルな面の知見も必要です。 

知識のみならず、その人の考え方や人間性も、 

その「社会価値」を上げるか下げるかに大きく影響してきます。 

 「社会価値」に重きを置くならば、 新規事業や既存の事業のあり方を考える方法も、 

これまでのやり方とは大きく変わってきます。 


私としては、 「共通価値」や「社会価値」の考え方が一般的になるには、 

まだまだ時間がかかると思っていました。 

ですが、世界の先端をいくハーバードビジネススクールでは、 

ポーター以外の教授陣も、この方面の研究を進めているようです。 

もしかしたら、意外と早く、これらの考えは広まっていくのかもしれません。


(旧ブログ「ひできの八ヶ岳ブログより抜粋)

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