私がまだ4つか5つのころ。
瀬戸内海のとある小さな島。
東京から来た叔母といとことともに、
私たちは、近くの半島から船に乗り、
その島に渡っていきました。
辺りは薄暗くなった、とても静かな夕方でした。
古い質素な小さな旅館の、
少しゆがんだ手作りの格子ガラスの窓から外を見ると、
目の前を横切る細い道のすぐ向こうに、
小さな波止場があり、
そこには数隻の木造の漁船と、
その先には、群青色をした、
滑らかな水面の瀬戸内海が続いていました。
翌朝、港に出て行き辺りを見回せば、
あちらこちら黒や赤のカニが泡を吹きながら走り回り、
名前はわからないけれども、
様々な海の生き物や海草が、
人の暮らしのすぐそばで、息づいているのを見ることができました。
この風景は、私の幼いころの大切な思い出であり、
心の原風景のひとつとなっています。
その島は、
通っていた小中学校から数百メートル歩くと見えていた、
私の生活の風景の一部であった島です。
その島の名前は祝島。
無数にある瀬戸内海の島のひとつに過ぎないその島が、
2本のドキュメンタリー映画に取り上げられ、
全国的に知られるようになるとは、
数年前まで、夢にも思ってはいませんでした。
祝島のすぐ近くにあり、
私たちが島に渡っていく船に乗った半島の港町こそ、
今、原発の建設で揉めている山口県の上関です。
そこは美しい漁港です。
そこは古くから瀬戸内海の海の流通拠点として栄えた、
歴史と文化のある場所でもあります。
50代以上の方はご存知かもしれませんが、
朝の連続ドラマ小説「鳩子の海」の舞台となった街でもあります。
今、エネルギーに関しては、
風力発電の技術向上と太陽光発電の価格低下によって、
原子力発電に変わる代替エネルギーの可能性が出てきました。
イギリスでは13兆円をかけて、
原発30機分の発電を行うことを決定しました。
これはイギリスに現存する原発の数をはるかに超える規模となります。
しかも、上関のある山口県では、
一筋の新たな可能性が芽生えつつあります。
自然エネルギーの環境政策の専門家である飯田哲也氏が、
県知事選挙に立候補をされました。
山口県の出身であり、私の高校の先輩でもあります。
本来なら、国のエネルギー政策で、
もっと活躍されるべき方と思いますが、
野田政権ではどんなにあがいてもだめなので、
地方行政のトップとして、新たな社会づくりに貢献されるのは良き判断だと思います。
しかしながら、その原発建設には地元の根強い推進派が存在します。
瀬戸内海の水産資源の減少から漁獲高が減り、
それ以外にそれといった産業のない田舎の漁村としては、
原発建設の代わりに支払われる補助金や保証金は、
今の住民や子や孫のためを思うならば、
喉から手が出るほど欲しいのも不思議ではありません。
経済という切り口では、それ以外に選択肢がないからです。
先日、大飯原発の再稼動に際して、
原発に何かあったら最も被害を受けるはずの地元が、
真っ先に再稼動に賛成したのも、
同じように、他に選択枝を見つけることができなかったからでしょう。
今の、原発問題は、
エネルギーの確保と安全性のことのみならず、
地元の人々の暮らしについても、
しっかりと考えていかなくてはなりません。
山口県知事選のことは、
先日の報道ステーションにも取り上げられました。
https://www.youtube.com/watch?v=u6szdjpT5tE
コメンテーターは、経済の専門家の藻谷くん。
飯田さんの後輩であり、私の高校の同期でもあります。
彼の故郷を想うコメントに、
ちょっと私も共感しました。
7,8年前のことですが、彼には、
ある街の再開発で私が作った、
大型集客店舗に頼らない、
地域の人々の暮らしに重点をおいた、
地域循環型経済へのシフトを目指した街づくりのプランを、
街の活性化には集客装置が必要だと、
批判されたことがありました。
しかし、その後に出版されベストセラーになった、
「デフレの正体」のあとがきを見ると、
彼自身も、地域循環型経済へのシフトの重要さに目覚めたと見えて、
かつてとは考えも変わってきたように見受けられ、期待がもてます。
今、原発を撤廃するには、
その地元の人々の生活の安定と、
今後の確実な見通しを確保することも必要です。
単に、原発反対と言っていても、
それは安全性に不安を抱える人の単なるエゴでしかありません。
原発撤廃によって影響をうける人たち全てのことを考え、
彼らの経済的な不安も解決してあげなくてはなりません。
その点で、地域経済の再活性化に詳しい藻谷くんに、
飯田さんの力になってもらえるならば、
山口は、新たな時代への扉を開くことができるのではと期待しています。
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