ある人が首長や社長になったとたんに、
大幅な給与削減やリストラを行い、
それが財政の立て直しに功を奏したと、
評価される声をよく聞きます。
しかし、経営を専門にする私からすると、
人件費をカットすることは一番安直な方法で、
ある意味、その気さえあれば誰であってもできるやり方です。
すぐに給与削減やリストラを口にできるのは、
その人の心の冷たさと能力の不足を露呈しているにすぎません。
世の中には、
自分のために人を犠牲にする傾向の強い人と、
人を想い人のために働く傾向の強い人とがいるように思います。
誰もが、それぞれに傾向の強さを持っています。
その傾向が、明らかにわかる人もいますし、
どちらの傾向が強いのか、わかりにくい人もいます。
しかし、政治家や会社の経営となると、
その行動や発言から、比較的その傾向が如実に表に出てきます。
自分のために人を犠牲にするタイプの人は、
会社や組織の業績が悪いと、
業者に対して払うべき支払いを遅らせたり、
手っ取り早く収支の改善ができる、
従業員の大幅な給与削減やリストラに、
真っ先に手をつけたがります。
また、普段においても、
従業員や仕事仲間を、
いかに自分のために「利用」しようかと、
考える傾向が強いのが特徴です。
その一方で、
人を想い人のために働くタイプの人は、
従業員と一緒になり、
誰一人としてリストラすることなく、
どうしたらこの難局を切り抜けられるかを、
あらゆる知恵を絞って考えます。
この人が選ぶ道は、
リストラをすることよりも何倍も大変な道のりです。
結果が出るのはゆっくりであることから、
多くの人にはその真価が気づかれないことが多いのも現実です。
それを遂行することのできる人は、
他の人の状況を理解する想像力と、
自己の利害に束縛されない心と、
新しい展開を生み出す知恵とを持ち合わせています。
そういう人こそ本物の知恵者であり、
他人より心から信頼される人でもあります。
日本航空を再建した稲盛さんはその代表でしょう。
今回、稲盛さんが日本航空の再建に着手する前に、
すでに再建屋の弁護士や再建機構の人々により、
大幅なリストラが既に決められていました。
もし、それより前から稲盛さんや森田さんらが着手していれば、
多少の回復の遅れはあっても、
間違いなくリストラは必要なかったと思います。
確か、世界の社会企業家を支援する、
アショカ財団の創始者ビル・トレイトンさんは、
支援する企業家を選ぶ時には、
自分とその人と二人で高い崖に立っている場面を想像し、
そこでその人に自分の命綱を託し、
自分の命をその人に任せることができるかが、
その判断の基準であると語っていました。
人々への影響力の大きい人ほど、
やはり、命綱を託せる人であってほしいものです。
リストラを簡単に断行できる人に、
自分の命綱を託せることができるかと言えば、
その答えは明らかです。
類は友を呼ぶと言いますが、
信頼できる人の回りには、
同じような人が集まってきます。
お互いの協調を大事にする彼らの力は、
その総和以上に大きくなります。
お互いがお互いから学び、
モチベーションも高く、自らも育つことから、
それぞれが、次第に本当の知恵のある人へと育っていきます。
それは、想像を超える、新しい未来を生み出す可能性を秘めています。
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