心の傷を“癒す”しごと


日本人で中国の天安門事件に遭遇した人はいれども、
あの文化大革命を直接経験した人は殆どいないはず。
ところが、その文化大革命の時に中国に住み、
あの騒乱の被害者として巻き込まれた日本人がいたことに驚きました。
しかも知り合いの女性。

妻の古い友達である佐藤真由美さん。
私たちがイギリスに留学していた時に、
丁度ロンドン郊外に住んでおられていて、
とてもお世話になった方です。
シューマッハカレッジや八ヶ岳にも、
何度か遊びに来てくれたこともあります。

その彼女が最近出した本がこれ。

解放出版社


東ベルリンで生まれ、中国で育ち、その後に日本に。
有名国立大医学部に入ったものの、
退学して米国の大学、大学院に留学。
その後、彼女の類まれな才能と行動力とが導いた、
航空関係の仕事から、国際NGO、国連職員、
ユーゴスラビアやマザーテレサの修道院などでの、
様々なボランティアといった、
世界を舞台にした様々な体験を綴った半生記です。

国連職員として、
戦闘中のアフガニスタンに派遣され、
子供たちを救う活動の最中に経験した、
生か死の極限状態の体験には圧倒されます。

この本を読んでいると、
彼女の人生の根底には、今生における魂の使命のような、
何か強く一貫したものが在る様に感じます。

私が感じる、その一貫したテーマとは、
人間のエゴや無関心によって傷ついた人々を癒すということ。
文化大革命では幼い時分に親子を引き離されたり、
また日本や世界で受けた差別の体験があるからこそ、
心が傷ついた人に何が必要かが分かるのかもしれません。


戦争や政変の原因を突き詰めていくと、
必ず人間のエゴや無関心に突き当たります。
世界の至る所で、あらゆる時代で、
エゴや無関心が、実に多くの人を傷つけてきました。
それは戦争や政変のみならず、私たちの今の日常においても、
家庭や職場、学校の教室といった身近な所でも起こっています。

人間は、肉体に宿ることによって知覚を制限され、
他人の事情や想いのすべてを知ることができないことから、
どのような人であれ、
他人の心を傷つけないで過ごすということは不可能といっても過言ではありません。

しかし、その代りに、
お互いがお互いを思いやり、
それぞれに足りない部分をお互いに補完し合うことを通じて、
そこに私たちは、一人では決してできない体験と、
“幸せ”を感じとることができます。
自然界が人間に与えてくれた絶妙なしくみです。

ところが現代社会では、
多くの人がモノやカネや権力に心を奪われ、
人と人との距離が離れ、思いやりや寛容さが失われているがために、
“幸せ”を感じるより、心に深い傷を負っている人が大勢います。
それはいわば人類が負った傷であり、
そのままにしておくと未来に負の影響を残していきます。
そういった傷を癒す活動は、
今の世界に本当に必要とされています。

傷ついているのは人間の心だけではありません。
多くの人が知らず知らずのうちに傷つけている地球もそうです。
先進国の資源の浪費のみならず、途上国の急速な経済発展によって、
環境破壊と様々な天然資源の減少が急速に進み、
地球自身も大きく傷ついています。

癒す(Heal)とは、全体(Whole / Holistic)に還る事。
「個」に「全体(大自然、神)」との調和をとりもどさせることです。

この佐藤さんの本は、
特に、そういった癒すための何らかの活動をしたいと思っている人に是非お薦めの一冊です。
ちょっとやそっとではくじけない勇気と、
本当の癒しということはどういうことなのかを考えるうえで、
貴重な材料を与えてくれます。

Think Beautiful

未来に残したいリジェネラティブな社会づくりを考える

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