自然から学ぶ社会のしくみ(3) ~ 自己組織化の条件とは

その2では、自然界の自己組織化が新しい社会の一つの基本になる可能性について書きました。それが人間社会において起こりえるのかどうか、起こるとしたらその条件とは何かということが今回のテーマです。


自己組織化の本質は「協調」にあります。今回のテーマを“協調的組織”作りのための条件、と言い換えることも可能です。ただし、ここで一つおことわりしておきますが、人間社会にも自己組織化が・・・といっても、学問の世界でいう厳密な意味での決定論的な自己組織化が起こるかということを述べているわけではありません。生物の世界で起こっている自己組織化をメタファーとして、そのメリットが活かされる組織づくりが可能かどうかと言うことです。

やや長文ですので、お暇なときにゆっくりとお読みください。


この条件を抽出した基本となっているのは、自分の大学院時代の“協調”についての研究

The Self-organized Community Emerged from Individual Cooperation

が中心となっていますが、その他に、発想の原点となったのは、H.マチュラナとF.バレーラの

オートポイエーシス(自己生成)理論。ブライアン・グッドウィンの構造主義から複雑系生物学にいたる諸研究。そして、発想の裏打ちをしてくれたのがデビッド・ボームとデビッド・ピートらによるDialogueの研究です。

その他に参考にしたのは、従来からの創造的組織論の諸研究、パトリシア・ショウらの複雑系組織の研究、フリチョフ・カプラが解説してくれたシステムセオリー、Cooperative Inquiryの研究などがあります。


今の段階では11の条件にまとめています。今後、追加されたり、整理整頓されたりする可能性がありますが、今日は、さらりとそれらをご紹介しておきます。きっと、少なからず日々の職場などで使えると思います。


<人間社会における自己組織化の条件とは>


1.情報の共有

参加者としての人々は必ず、話し合う内容や共に行動を起こすために最低限必要な情報を共有する必要が必須です。決して参加者同士の間に情報の偏りがあってはいけません。


2.公平な立場で参加すること

そのコミュニティーに、他者を強制するリーダーや、闇雲に追随するだけのフォローワーがいてはいけません。一人でも存在すると真の自己組織化は起こりません。


3.自由であること

基本的にルールや規則は出来る限りない方がよいでしょう。自己組織化は基本的に「個」の真の自由から生まれます。自由な発想、自由な行動が許されないことは、それは大きな阻害要因になります。(真の自由とは、エゴを実現する自由と言う意味ではありません。エゴからも自由になった状態といった方がよいでしょうか。)


4.参加者の自主性

参加者は自ら考え、自らそれを他者に表現する必要があります。それがないと自己組織化の原動力である相互の交流は生まれません。個人が積極的に他者と関わり、お互いを理解しあうことが必要です。


5.他者の受容

自分の意見も言いますが、自分の意見と同じだけ他人の意見も受け入れなければなりません。この作用が実は自己組織化のエンジンのような役割をします。ちなみに他者を受容する努力は組織の大きさに乗数的に比例します。小さな組織ではそんなに苦労はいりませんが、少し大きくなるだけで、お互いを理解しようとする努力はとてつもなく大きくなります。


6.断定はせず常に仮説としてとどめる態度

これまでの社会では判断や断定、結論、決定と、何か決まった固定的なものを求めてきました。そのために、誤った理解が広まり、長い年月のあいだ、間違った理解が定説として流布することが多かったのも事実です。生命は決して固定したものではなく、常に変化し続けています。私たちが下す判断も、その時はある程度正しかったかもしれませんが、時間がたつとそうではなくなることが少なくありません。従って、判断を固定することなく、仮説の状態に維持しておき、つねにより相応しい認識、判断を求め続ける態度が必要です。


7.組織は適切な大きさであること

全てのものには、それに応じた相応しい大きさがあります。人間社会の組織にも同じことが言えます。適切なサイズを維持することの大切さは、E.F.シューマッハが残した言葉の大事な一つでもあります。人が集まって何かを話し合う場合、その適切なサイズは6人から12人くらいと言う人もいれば、30人までと言う人もいます。しかし、それは内容や参加者によってケースバイケースだと思います。


8.目的が明確であること

何を目的に集まっているのかが明確でない組織では、活発な相互交流は生まれませんし、一つのコンセンサスに向かっていく推進力がありません。その組織の目的を明確にしておくことは、参加者一人ひとりの心に、組織に貢献するためのエネルギーを注ぐことでもあります。


9.参加者は先入観、偏見を決して持たないこと

あたりまえのようで、なかなかできないのがこれです。これができるようになるのも人間としての一つの試練かもしれません。先日にイギリスを発端に世界的な話題になったSuzan Boyleさんの一件は、YouTubeのほかに世界各国のTV放送局が放映したことから、2週間あまりの間で地球の数億人(推定)が知ることになりました。まさに、先入観を持たないことへの世界規模のレッスンとなった気がします。まだご覧になっていない方は是非どうぞ。→こちら


10.開放系 ~ オープンであること

組織は排他的であってはいけません。常に、外部との自由な出入りができ、メンバー個人の意思によって参加、不参加を決めることができる必要があります。常に開放系として開かれたものでることは、組織の適切な新陳代謝を促し、外部の環境(全体)との調和を追及するための大事な要素となります。必要な組織は適切なサイズまで大きくなり、必要のない組織は自然に小さくなっていき自然消滅します。


11.参加者全員がこの条件を理解して実行すること

一番最後になりましたが、これが一番クリアするのが難しい条件であり、私が現代の状況の中で自己組織化が一般的には無理だと思う理由です。その一方で、1~10までの条件を学んでいなくても、これらを自然に理解されている方は少なくありません。しかし、その方々を取り巻く社会、会社、組織の構成員の多くは、このことを認識するには程遠く、実現することができないのが現状だと思います。また、1から10はお互いを相互補完する関係にあり、そのどの一つが欠けても成立しない、どれもが「自己組織」という一つのシステム(系)を出現させるための必須条件となります。


条件は以上です。

これは大変だ、実現できそうに無いと思われるかもしれませんが、確実に人々は、自己組織化とか前述の条件の言葉を使わなくても、そのあるべき組織のあり方やお互いが協調しあいながら生活するための基礎を、いま、あらゆる側面から学びつつあります。

いずれ多くの人が、ごく自然にこれらのことを行っている時代が来ることは、決して遠い未来ではないと私は信じています。


(旧ブログ「ひできの八ヶ岳ブログ」より、修正・再掲載)

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幸福な社会づくりをテーマに、日々の気づき、気になったことなどを書き溜めていきます。

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