かんぽの宿はなぜ1000円だったのか



かつてコンサルサルティング会社時代に仲の良かった友達J君がシカゴ大学のMBAに留学し、そのときに、「この本はおすすめだよ」と教えてくれたのが、たしか「Corporate Value」と言う本でした。それは、企業の売買を行う際に、企業の値段を決めるために用いるDCFという算出法の手引書でした。

いま話題の「かんぽの宿」ですが、1000円などと言う破格の値段を、なぜ日本郵政やそのアドバイザーをしているメリルリンチが正当な価格としていたかといえば、このDCFがその根本的な原因でしょう。

DCFとは、Discount Cash Flowの略で、一言で言えば、その企業が未来に稼いで増えるキャッシュフローを、現在価値として割り引いて、今売買する値段を決めるものです。さらに、ものすごく大雑把に言えば、その企業が未来にどれくらい稼げるかだけで、その会社の価値を決めてしまうのです。

従って、一部のかんぽの宿のように、赤字続きで、未来のキャッシュフローが今の量より少なくなることが分かっている会社では、キャッシュフローの増加量がマイナスのために計算式が使えず、その場合はその会社の価格はいきなり0円となってしまうのです。0円では取引にならないので、結局1000円とか10000円とかといった値段をつけて販売したのだと推測できます。

通常なら、売主は出来るだけ高く売りたいという心理が働くことから、最低でも今の地価をもとに、更地にする費用を差し引いた金額にしたり、立ち木がある場合にはその値段を上乗せしたりします。その点、今回の郵政公社の担当者たちは、結局は自分のお金でないことから、特に価格引き上げ努力をすることなくメリルリンチに言われたままに売却することにしたのでしょう。

また、DCFでは、数式に使う利益予想やディスカウント率をわずか0.5%変えるだけで、企業の値段が著しく変わります。DCF法は外資系投資銀行が日本に持ち込んで、好んで使かい、これで膨大な手数料収入をかせぎました。

いずれにしても、このお金だけの尺度で会社に値段をつけるDCFは、今後、一般的ではなくなると思います。もっとも、資本主義の崩壊過程においては、資本主義を前提にしているDCFも消えていくのは当然ではありますが・・・。

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