昨年の11月に、シューマッハカレッジに、サティシュ・クマールやブライアン・グッドウィンをはじめとして、オルターナティブな経済学者、社会活動家、国際的なNPO、NGO関係者が集まって、今後の社会、経済についての会議が開かれました。
その会議で出された提言が、
“The e4 Declaration”としてHPで発表されています。
その参加者の一部にインタビューしたビデオもあります。
ちなみにe4とは、
ecology, economy, equity, ethics,
といった、今日の重要な課題となっている4つのeからとっています。
残念ながら提言の文章は、まだ十分に推敲されたものとは言えません。
従って、それを読んだだけでは多くの方にとって、
何を言いたいのか分からないことも多いと思います。
今日は、その8つの理念の部分を、
補足をしながらご紹介しておきます。
“The e4 Declaration”の8つの理念
①quality of life
~生活の質の重視
いわゆる金銭のみの尺度で測る経済成長を重視している社会から、生活の質の向上を最も重要とする社会への転換を目指します。
②ecological realities
~エコロジカル社会の構築
これは単に環境政策的な意味合いだけでなく、かなり広義のエコロジカルという意味で、生活、行動、社会制度すべてにわたって、自然の摂理と調和した現実を創りあげていこうというものです。
③appropriate scale
~全てのものが適切な規模であること
これは、スモールイズビューティフルのF.シューマッハが語った最も重要なメッセージの一つですが、全てのものには、それに適切な規模(サイズ)があり、大きすぎても、小さすぎても良くないというものです。特に、現代のグローバル社会においては、グローバルに生産される基本生活財の生産・消費の規模と流通範囲は大きすぎ、様々な問題を生じています。地域のニーズをくんで、地域でそれらを生産し、売り手と買い手がもっと直接的な関係にあるような社会構築をすることが重要です。ただ、地域が、中世以前のように完全にグローバル世界と切り離されるわけではありません。グローバル社会と連携をとりながら、グローバルに行き過ぎたそのバランスの是正が必要であるということです。
④optimal diversity
~最適な多様性の確保
社会、文化、経済などあらゆる分野において、最適な多様性を確保することが大切です。多様性があり、それが調和を保っている状況であれば、それは外界からの急激な変化に対しても、高い弾力性を発揮し、安定を保つことができます。地球生命系から、私たちの口の中や腸にいたるまで、それらが安定的に維持できているのも、この多様性による調和的バランスによることは周知のとおりです。
⑤from ownership to stewardship
~オーナーシップからスチュワードシップへ
(所有権制度から受託活用制度へ)
過去2000年にわたった、いわゆる「所有権」に固執した考え方から離脱しようというものです。この「所有する」という考え方は、古代からあったものではなく、人類の歴史からすると比較的新しい概念です。しかし、その概念が広まってからというものの、それは不安、争い、権力の横暴、貧困、不平等、奴隷化などを引き起こした諸悪の根源の一つとなっています。ただし、現時点では、所有権というものが経済活動のインセンティブになっているところも多いことから、一気に止めることはできません。従って、小さい規模での事業や起業においては、個人の所有や共同所有を認める必要があるかもしれません。しかし、規模の大きなもの(特に一定規模以上の法人、自然資本の利用など)については、一部の人に権利や富が集中しない組合管理制度、或いは、受託活用制度に移行するのが望ましいということです。
⑥stable and dynamic
~動と静
複雑系科学の大御所の一人、ブライアン・グッドウィンの発言かと思います。生物システムにおいて、固定的なパターン化した動きをしている状態は、実は健康ではなく不健康の特徴的な兆候です。健康な状態とは、カオス的な無秩序に変化する状態と、固定したパターン化した状態との狭間に発生する、あるバランスがとれた、微妙に変化し続けながらも秩序を維持しつづける状態を言います。この状態は弾力性、柔軟性に満ちており、まさに生命が生きている証でもあります。「動的平衡」という言葉がありますが、これは一時代古い概念で、言葉足らずです。ブライアン・グッドウィンの表現を借りるならば、「HOMEO-CHAOS」つまり「カオス的平衡」といった方が、より相応しい表現でしょう。社会の健全性においても同じことが言えます。固定化した状態でも無秩序に変化する状態でもなく、その中間にある微妙にバランスがとれた、ゆるやかな秩序を維持している状態を目指すこと。社会におけるあらゆる面で、そういった状態が社会の健全性を維持する基本のひとつとなります。
⑦equity
~貧困と不平等の排除
現代の貧困と不平等は、様々な利欲と、自由化と競争原理の導入によって、必然として作り出された人工的なものです。世界には、全ての人に十分にいきわたるだけの食料や資源があるにもかかわらず、富の偏在によって、それらが一部の人に集中し、全ての人に行き届いていません。これを是正するには、社会制度、金融・経済制度、法人制度、税制にいたるまで、様々な取り組みが必要になってきます。これは、誰かが担当してできるものではありません。全てのセクターにおいて、貧困と不平等の排除に向けて、積極的に改善努力をしていかなければなりません。
⑧beauty and elegance
~美しさとエレガンス
サティシュ・クマールさんがとても重視している言葉です。何が正しいのか、何を選択しなければならないのかが分からないような時、判断の材料として最も信頼できるのが、それが真の美しさを持っているかどうか、エレガンスさを実現できるかどうかという点です。本当に心の底から美しいと感じるものは、世界の誰もが持ち合わせる共通の感覚であり、その美しさやエレガンスさは自然の摂理と同調しているものだからです。真の美しさとエレガンスさの実現は、私たちの精神面および生活の質を向上させるための大事な要件でもあります。
今日は以上です。
引き続いてThe e4 Declarationが考える未来像についても、
近日中にアップしたいと思います。
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