Glimpses of the Future ~ 未来社会を垣間見る


前回の記事でThe e4 Declarationの8つの基本理念についてご紹介しました。今回は、提言が基本理念に基づいてどのような未来社会を考えているのか、原文を元に、若干の補足をしながらご紹介したいと思います。

(Ⅰ)Food and Agriculture ~ 食と農業

食物は高い栄養価のある質の高いものであり、かつ、美味しいものでなければなりません。そして、それを世界中の皆が享受できることが必要です。そのためには、以下を基本とする新たな農業のあり方を実現しなくてはなりません。

1)農業は基本的に伝統に基づいたものが相応しいと考えます。しかし、単に昔に戻ることではなく、必要に応じて優れた科学を用いながら伝統的な技術を再構築したり、労働負荷を軽減するために適正技術を用いることも必要です。

2)真に持続可能な有機農業を目指す必要があります。また、それを地域で作り、地域で消費することが重要です。それは、健康で、かつ安全、新鮮な食糧供給が可能になるばかりでなく、適正な規模での生産、流通、消費、ガバナンスを実現するためにも重要です。食がコミュニティーの中で生産者→加工業者→小売店→消費者とめぐるようになれば、食の流通を通してその地域に安定的な富を形成することができます。

3)すでにこういった生産や活動をしている先駆者は数多くいらっしゃいます。世界的な社会変革が起こるにあたって、その変容を推進する上で、そのような方たちによる指導、支援が欠かせません。

4)過去20年の間に急速に世界中に広まってきたものに、スローでオーガニックな料理法への関心、また、消費者と有機農家が強い結びつきをもって農業経営を支援するコミュニティーサポーテッドアグリカルチャーのしくみや、農地委託制度、生協活動などがあります。そのような動きを今後も推進していかなくてはなりません。

(Ⅱ)Money ~ 金融制度

お金は人が作りだした道具であり、そのしくみや働き方は変えることができます。従来のお金は、私たちをお金のために働かなければならないような性質をもっていました。今後は、それを私たちの生活のための真に役立つものに変えていかなければなりません。また、金融危機のように利欲による投機のために、私たちの生活が不安定になることも許されません。お金は安定的であり、エコロジーがゆるす範囲の実体経済を支援する役目を担わせなければなりません。

1)現代の経済指標は生産した付加価値だけしか計りません。そこに社会的、環境コストは含まれていません。そういった社会的資本、自然資本の増減まで含んだ会計を行うことによって、より社会の正しい状態を把握することができるのみならず、より相応しい判断のための材料とすることができます。

2)様々な規模の経済圏を支援し、かつ、社会価値、環境的な価値を増進することにつながる補完通貨の推進を行います。それは、ドイツのChiemgauer currency、スウェーデンJAK Bank、スイスのWirtshaftsringといった地域通貨のように、人のために機能する通貨でなければなりません。また同時に、コミュニティーを基本にした組織づくりや事業投資を推し進めるための、地域に密着した金融システムを進めていくことも重要です。

3)新しい国際通貨システムの試案であるTERRA(Grobal Reference Currency、TERRAはいくつかの基本的な財の価格を参照しながらその価値を決定して、インフレやデフレ、また、通貨発行者の不当な利益を除外することのできる仕組みを取り入れた通貨として世界的に注目されている案です。)や大規模な無利子融資のしくみづくりなどへの研究を積極的に支援する必要があります。

(Ⅲ)Governance ~ 自治、行政、企業

これからの社会は、そこに住んでいる住民自身が、自分たちの地域のことを知り、大事なことを決定し、実行していくことが大切です。これは地方のレベル、国家レベル、国際レベルでも同じことが言えます。権限を持った一部の人、或いは、外部の人が、他人の地域や組織を管理するということは、すでに過去の古い形態と考えてよいでしょう。真の民主主義の実現が求められます。

1)権限委譲を推進して、出来る限り当事者に責任と判断を任せます。これは地方自治に関しても、企業などの組織に関しても同じことが言えます。

2)大企業など規模が大きな組織、また多国籍企業に対しては、その規模に応じた規制をかける必要があります。お金のあるところにお金は集まります。多様性に満ちた社会を形成するには、当面の間、それを阻むものに対して規制をかけることが必要となります。

3)これまで癒着が激しかった政治と企業の関係をはっきりと切り離します。

4)株主の権利より従業員、顧客、取引先、地域社会の権利を強めます。

5)最低賃金の規則と同様に、最大賃金にも制限をつけます。誰にでも理解の出来る一定の範囲での報酬体系にします。

6)世界の経済と環境を監視する国際組織を設立します。

(Ⅳ)Energy ~ エネルギー

化石燃料と原子力からの脱却を目指します。そして、分散型、地域におけるエネルギー生産と弾力性のあるエネルギーネットワークの実現を行います。

1)化石燃料の消費が、本当に地球全体規模で考えると極めて高コストについていることを考慮して、化石燃料の使用に対する制限を設けます。

2)建物、住宅、輸送機器、電気製品など、エネルギー消費をするものの効率を高めるための改造、技術革新を急ぐとともに、地域レベルの小規模で高効率な再生可能エネルギー生産の技術の導入を推進します。

3)スマートグリッドに代表される、分散して発電された電力をお互いに結びつける電力ネットワークを推進し、各地の風力発電、太陽光発電を結び安定的な電力供給のできるインフラを整備します。小規模なものは既にドイツ、イギリスで実現されています。

4)こういった転換の着実な進展を計るために、指標の設定や政策的インセンティブを導入します。また、新しい取り組みや新技術の展開を妨げている規制の撤廃を行います。

原文とその補足は以上です。原文が各識者の発言を寄せ集めた感じであったので、読みやすいようにやや整理してあります。

これが発表されたのは昨年の11月ですが、驚いたのは、この提言内容の多くが、1月にオバマ大統領が発表した政策方針と重複していることです。シューマッハカレッジに関わる研究者や活動家は、これまで明らかに主流派からは異端視され、大学教授をしている私の兄の言葉を借りると「学際」的として、あまり日の目を見ませんでした。しかし、昨年来から急変している世界の動きに、ようやくその努力が実る時期が近づいているのを実感します。

これから何年かの間、世界が、これまでの一般的な常識では推測のつかないくらいの大きな変化をしていくことは、間違いないと思われます。

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未来に残したいリジェネラティブな社会づくりを考える

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