Emergence ~ 創発現象

先日のNHKのプロフェショナルで、
若くして世界的に注目を浴びる研究をしている、
システム生物学者の上田泰己氏が取り上げられていました。

上田氏の研究のテーマは体内時計についてなのですが、
ご存知のように、身体のどこかに、
体内時計という臓器があるわけではありません。
身体のいくつかの特定部位にある、
特別な性質をもっている細胞の集まりによって、
体内時計の役割が果たされているのだそうです。

番組の中で、その細胞の集まりの挙動が、
紹介されていましたが、
それはまさに、以前の記事で書いた、
コヒーレンス(Coherence)が細胞群の間で起り、
オートポイエティックな自己組織が起ったものでした。

簡単に言うと、
そこのそれぞれの細胞自体は、もともと、
ある特定の周期で点滅しているのですが、
だんだんとお互いが同期してきて、
最後には全体が点滅するようになり、
それが体内時計の役割を果たしているのだと思われます。

一般的な細胞自身の基本的な特性として、
お互いの細胞が周囲の細胞の周期を感じ取り、
自分の周期を尊重しながらも、周囲にもあわせていくという、
協調的な性質があります。
(この協調的なな性質を失っているのがガン細胞です。)

自分の周期を尊重するか、
それとも他者の周期に合わせていくか、
その度合いの変化によって、
それぞれがバラバラに点滅するカオス状態か、
全体が同期して点滅する秩序状態かが決まってきます。
生物界では、その度合いが絶妙にチューニングされていて、
そのカオス状態から秩序状態に遷移するわずかな帯域を、
行ったり来たりすることで、
環境の変化や内部の変化にも、
柔軟に対応しながら代謝を行うことができ、、
生命が育まれ、維持されていると言われています。
これは、体内時計のみならず、
脳細胞の働き、胎児の発生過程、心臓の鼓動など、
様々な分野の研究で、この特性が確認されています。

このように、
お互いが影響しあって、
カオス状態から新たな秩序をつくることを、
Emergence、日本語では「創発」と言います。

テレビの内容を見る限り、
上田氏は、細胞実験で挙動とメカニズムの根拠を探り、
そして、その仮設を元にコンピュータで、
シミュレーションモデルをつくり、
そのメカニズムが機能することをシミュレートして、
証明することで、その研究の正当性を裏打ちする方法を、
取っておられるように見受けられます。
この手法には、数学とプログラミングのスキルが欠かせません。

これは、私がシューマッハカレッジで学んだ、
ホリスティックサイエンスにおける、
研究の方法論のひとつで、
私の恩師、故ブライアン・グッドウィン教授や、
その盟友でサンタフェ研究所のS.カウフマンらが、
20年以上前から行ってきた手法です。

このような、
個(例えば細胞)のしくみを解明することと同時に、
個と全体との相互依存、相互影響の関係によって現れる、
創発現象を探求する研究が、
これからも生命現象の解明をリードしていくことになると思います。

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