エントロピーの法則 ~ ジェレミー・リフキン

エントロピーの法則―地球の環境破壊を救う英知
ジェレミー・リフキン
祥伝社

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そういえばこういう本があったなと懐かしく思われる方も少なくないと思います。私もその一人です。

実に30年以上前に書かれた本ですが、
たまたま貸してくださった方がおられ、
本当に懐かしい再会をしました。

50歳以上の年齢の方で、
環境問題に早くから関心の会った方ならば、
必ずご存知ともいえるこの本。
当時、「沈黙の春」や「複合汚染」に匹敵するくらいに、
多くの人に大きな影響を与えた一冊だったと思います。

当時、故糸川英夫先生が主催しておられた、
組織工学研究会においても、
この本が取り上げられて紹介されたこともあり、
我が家でも、両親がその本を購入し、
それが、この本と私との最初の出会いとなりました。
エントロピーという言葉も、
学校で習うより先に、私はこの本から学びました。

30年ぶりの再会で、
久しぶりに本に目を通しました。

本の大筋を短くご紹介しておきましょう。

フランシス・ベーコン、デカルト、ニュートン、
そして社会面ではジョン・ロックなど、
彼等が主張してきた機械論的世界観は、
今や誰もが当たり前として受入れている価値観であり、尺度ですが、
それは、私たちが進歩として考えてきた科学やテクノロジーの、
発展の元になっている反面、
人間は自然をコントロールし、支配するという考え方も生んでしまい、
それが、環境破壊を推し進める要因ともなってしまいました。

エントロピーとは、“乱雑さの度合い”を意味します。
また、“エントロピーの法則”(熱力学の法則)は、
「宇宙における全エネルギーの総和は一定で(第一法則)、
 全エントロピーは絶えず増大する(第二法則)」
と定義されます。

エントロピーが低い(乱雑さが少ない)場合には、
エネルギーはいろいろな形に変換でき、利用することができます。
しかし、エネルギーを利用するとエントロピー(乱雑さ)は増し、
エントロピーが増大していくと、
ついには他のエネルギーに変換できなくなってしまいます。
つまり使えないエネルギーとなってしまうのです。
第二法則によると、全エントロピーは絶えず増大する一方で、
その逆はないことから、
使えなくなったエネルギーは永遠に使えず、
使えるエネルギーは減少する一方です。

エントロピーの法則は、
今の社会に重要な示唆を与えてくれます。
石油などの資源をエネルギー源とした場合、
それを一旦使うと、エントロピーが増大し、
それはすぐに再利用不可能な形になってしまいます。
利用可能なエネルギーが有限である以上、
それを使っているといつしか枯渇します。
再びエネルギーが増えることはありません。
今の人類は、あらゆる面でエントロピーを加速度的に増大させており、
これは、人類の終焉を早めているに他なりません。

その為に、これまでの機械論的世界観を改め、
新たな価値観を構築していかなければなりません。

・・・と警告しているのがこの本です。

リフキンは本の中で、いろいろな事例や、様々な分野に亘って、
エントロピーという言葉を使って、現代文明の誤謬を指摘しています。
当時としては、なかなか説得力のある本で、
世界中の多くの人々に読まれただけあります。

しかし、丁度リフキンがこの書を書いている頃に、
奇しくも熱力学の世界は大きな転換点を迎えていました。
先に書いたように、熱力学の第二法則は、
いわば秩序の“崩壊”を示したもので、
崩壊してしまったらもうそれで終わりでしかありませんでした。

しかし、1977年にイリア・プリゴジンが非平衡熱力学で、
ノーベル賞を受賞したことに象徴されるように、
自然界では、一定の条件を満たすと、
崩壊したものから秩序が生まれるという、
新たな原理が明らかになってきたのです。
つまり、“崩壊”とは逆の、
“秩序生成、自己組織化”とも言うべき理論が確立されてきたのです。
この“自己組織化”はエントロピーを減少させます。
第二法則の全く逆方向のことが、実は自然界の中で起っていたのです。そしてまた、私たちの生命や、この青い地球を創りあげている原動力になっていたわけです。

リフキンもプリゴジンの業績を耳にしたのか、
この本でも、わずか1ページだけですがプリゴジンのことを書いています。
でも、プリゴジンの実の研究には触れてはいません。
それは、彼がプリゴジンの実の研究を書物に反映しようとすると、
これまで書いてきた内容を大幅に修正しなくてはならなかったからと思われます。
結局、リフキンは、この本のなかでは、
“崩壊”に専念し、首尾貫徹したと考えられます。

そういうわけで、
2010年の現在においてこの本を読むと、
大事なもう半分が欠けている、
何だか片輪走行のような印象がぬぐえません。
しかし、書かれたのが30年以上前ということを考慮すると、
自己組織化という言葉がまだ知られていなかった当時においては、
仕方なかったことでしょう。

今の時点で、
リフキンの「エントロピーの法則」の片輪走行を修正し、
“崩壊”と“自己組織化”との両方を、
きちんと網羅して世界を考察した書籍というと、
日本の研究者によるものは皆無ですが、
欧米では少なくない数があります。

その筆頭は、やはり、
フリチョフ・カプラでしょう。
“The Web of Life”、“The Hidden Connections”などは、
私としてはお奨めです。

The Web of Life: A New Scientific Understanding of Living Systems

Anchor

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The Hidden Connections: Integrating the Biological, Cognitive, and Social Dimensions of Life Into a Science of Sustainability

Doubleday

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もう10年以上前の本ですが、田中三彦さんらが訳された「新・ターニングポイント」も、今の日本にとってはまだまだ学ぶべきものが多い書籍だと思います。お奨めです。
新ターニング・ポイント―ポストバブルの指針
フリッチョフ カプラ
工作舎

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今、日本のアマゾンでカプラを調べたら、
かつて「タオ自然学」で広く知られたカプラも、
このところ殆ど翻訳が出ていません。
欧米諸国の人々が、こういった世界観にシフトしていく中で、
日本人だけが取り残されていってしまうという、
非常に危機感を感じるのは、
きっと私だけではないと思います。

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